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「空間に生きる―日本のパブリックアート」展特集
太陽の下で、アートと遊ぶ。

スパイラルスプリング
▲スパイラルスプリング 撮影:並木博夫

アートに出合える場所は、美術館やギャラリーの中ばかりとは限らない。いつでも、誰にでもオープンなアートが、ときには都市の真ん中に、ときには自然に囲 まれてある。
この特集では、北海道で出合えるそんな「パブリックアート」の中から、この季節、家族や友人とぜひ出かけてほしい彫刻公園をご紹介。
この夏、太陽の下で思いきりアートとたわむれてみては?

石山緑地
太陽の下で、アートと遊ぶ。

赤い空の箱
▲赤い空の箱 撮影:並木博夫

1993年、南区に開園した広さ11.8haにおよぶ公園。かつては札幌軟石の採石場だったが、コンクリートの普及で次第に採石量が減り、また、周囲に増 えた住宅から騒音と粉塵に対する苦情が寄せられるようになったため、1977年には完全に採石を廃止。
その後も飛来する粉塵や治安の問題から、跡地の整備計画が持ち上がり、1993年に公園の北ブロックがオープン。1992年には、公共空間での新たな彫刻 の可能性を模索していた北海道在住の彫刻家集団“CINQ”(國松明日香、松隈康夫、永野光一、山谷圭司、丸山隆)が、南ブロックの公園化に着手してい る。
構想・着工から4年、かつての石切り場は、産業遺跡としての面影を残しつつ、彼らの手によるダイナミックな石の造形によって、訪れる人々の遊び心を刺激す る空間へと生まれ変わった。ここを舞台に、地域住民による演劇やコンサートが開催されることもある。


札幌の記憶を刻む遊び場

芸術の森から車でわずか5分ほど。気軽に立ち寄れるのが「石山緑地」だ。
エントランスの白樺林を抜けると、最初に目に飛び込んでくるのは、青空にそびえるように建つ玉石の塔。下には「スパイラルスプリング」と名づけられた螺旋 状の水路があり、夏の間は塔から湧き落ちた水がぐるぐる渦巻きになって流れ、子どもたちに人気の水遊び場になる。そのすぐ横には「手つなぎ石」。鉄と石で できたオブジェなのに、なぜかあたたかい感じがするのが不思議。小さな子どもが石に抱きつくようによじのぼっている姿が見えた。
遊歩道を進んでいくと、次に見えてくるのは巨大なジャングルジム「赤い空の箱」。足をかけて上ってみると、斜めに傾く大地にくらくらする。さらにその奥に 広がるのは、軟石が階段状に配置された「ネガティヴマウンド」。古代の遺跡に紛れ込んだようなミステリアスな空間だ。そして、最も奥にあるのが「午後の 丘」。立方体の石の塊がごろごろと転がり、要塞のような石垣もあって、子どもには格好の遊び場だ。(文・井上由実)

モエレ沼公園

モエレ沼公園は、公園そのものが大きな彫刻作品だ。マスタープランを手がけたのは、世界的な芸術家イサム・ノグチ。彼が亡くなった後もその遺志を継ぎ、 17年の年月をかけて完成した壮大な総合公園。とにかくスケールの大きさは半端じゃない。敷地は馬蹄形のモエレ沼を含み189ヘクタール。札幌ドーム34 個分という広さだから、初めて訪れた人はきっととまどってしまうことだろう。公園の全体像を把握するには、モエレ山に登ってみるのが一番だ。標高は62 メートル。山頂まで3方向5ルートがあるが、大人の足なら10分程度で登れるはずだ。モエレ沼の全貌はもちろん、札幌市街がぐるりと一望できる。
山を下りたら、海だってある。美しい海辺をイメージした「モエレビーチ」は水深40センチ。サンゴで舗装された波打ち際には、さわさわと波の音が響く。よ ちよち歩きの子どもが小さな足を恐る恐る水にひたしたかと思ったら、急に歓声をあげてばちゃばちゃと走り出す姿が見えた。もうひとつ、忘れずに見てほしい のが水の彫刻といわれる「海の噴水」だ。最長40分にわたるプログラムが一日3~4回行われる。シャーという音とともに霧が出始めた途端、ボールのような 水の塊が飛び出し、最大25メートルまでせり上がる様子は息をのむ迫力。滝のように落ちてきた水がすり鉢状のプールに溜まると、今度は水が急にうねり、荒 れ狂う海のように揺れはじめる。一瞬たりとも同じ形にとどまることのない水のフォルムは、誰もがつい無心に見つめてしまうことだろう。
モエレ沼公園には、ほかにもたくさんの見どころがあるが、なによりの魅力は人々が思い思いに過ごせるという点かもしれない。ジョギングをしたり、日光浴を したり、家族でお弁当を広げたり…。芸術に興味のある人もない人も自由に楽しめる広場としての価値がある。
(文・井上由実)

イサム・ノグチの偉大な贈り物

テトラマウンド
▲テトラマウンド 写真提供:モエレ沼公園 撮影:並木博夫

彫刻家イサム・ノグチ(1904-1988)の最後にして最大の作品。モエレ沼は、豊平川の河跡湖として形成された馬蹄形の沼で、その名は「静かな水面」 を意味するアイヌ語の「モイレペツ」に由来する。不燃物の処理場として約270万トンのゴミが埋め立てられたのち、「札幌市夢の環状グリーンベルト構想」 の北部拠点として1982年に造成がはじまった。1988年にノグチが数度に渡って来札、公園全体をひとつの彫刻と見なす壮大なマスタープランを立てる。 同年末のノグチの死後、彼の意思を引き継いで造成は進められ、2005年7月にグランド・オープンを迎えた。彫刻とその周囲の環境、そしてそこに身を置く 人々との関係性を視野に含めた総合的な彫刻芸術を目指したノグチの仕事の集大成とも言えるモエレ沼公園。その広大な敷地には、モエレ山、プレイマウンテ ン、モエレビーチなど変化に富んだ要素が配され、人々の自由な遊びを誘うプレイ・グラウンドとして親しまれている。

アルテピアッツァ美唄

アルテピアッツァ美唄
▲テトラマウンド 写真提供:モエレ沼公園 撮影:並木博夫

かつての炭坑の町・美唄市と同市出身の彫刻家・安田侃による地域再生プロジェクトとして1992年に誕生した公園。「アルテピアッツァ」とは、イタリア語 で「芸術広場」を意味する。広大な屋外空間には、木々の緑によく映える白大理石の《天a》など、安田の彫刻が点在しており、自然のなかでゆっくりと作品を 訪ね歩くのが楽しい。
敷地内に残された旧栄小学校の木造校舎はギャラリーとして活用されており、ノスタルジックな空間のなかで安田作品を味わえる。1階は幼稚園になっているた め、屋外で園児たちが作品とたわむれる微笑ましい光景を目にすることも。

とうや湖ぐるっと彫刻公園

とうや湖ぐるっと彫刻公園
▲空充秋《夢洞爺》

一周約36.5kmの洞爺湖を取り囲んで、全58基の彫刻作品が点在する野外彫刻公園。北に羊蹄山、南東に有珠山と昭和新山をのぞむ洞爺湖の雄大な自然を 背景に、素材も作風も多彩な作品たちが競演する。
1984年、安田侃の《回生》が有珠山噴火により閉鎖した北海道立教員保養所の記念碑として洞爺湖畔に設置された。このことをきっかけに、洞爺湖を囲む虻 田町と洞爺村(現・洞爺湖町)、壮瞥町の3町村の共同事業として、この壮大な公園のプランが実現。
彫刻を訪ねて、湖畔をぐるっとドライブ-なんとも北海道らしい、爽快な美術鑑賞をぜひ体験してほしい。

ユカンボシ川河畔公園彫刻広場

ユカンボシ川河畔公園彫刻広場
▲植松奎二《樹とともに―赤いかたち》

ユカンボシ川の豊かな自然を守り伝えていくため、2000年に公園整備がスタート。道内外6人の彫刻家が実際に現地を訪れ、自然環境との調和を大切にしな がら制作した作品が設置されている。
「ユカンボシ」とは、アイヌ語で「鹿の住んでいたところ」の意。遊歩道のはじまりには、佐藤忠良の《えぞ鹿》がいきいきと跳ね上がって訪問者を出迎える。 ほかに、植松奎二、山本正道、丸山隆、山谷圭司、渡辺行夫の作品が、自然のなかにさりげなく顔をのぞかせる。
川のせせらぎに耳を傾け、原生林の新鮮な空気を存分に味わいながら、作品との出会いを楽しんでほしい。

展覧会情報
平成 18年度文化庁藝術拠点形成事業/札幌芸術の森開園20周年記念
空間に生きる-日本のパブリックアート

会 期:2006年10月1日(日)~10月29日(日)
会 場:札幌芸術の森美術館


主 催:札幌芸術の森美術館、財団法人札幌市芸術文化財団、「空間に生きる-日本のパブリックアート」展開催実行委員会
後 援:国土交通省、文化庁、札幌市、北海道教育委員会、札幌市教育委員会、都市づくりパブリックデザインセンター、日本建築学会
協 賛:図書館流通センター、佐川急便株式会社